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いつもありがとうございます! 長編の5〜6の間にあった出来事です。 『ユーリの懐にずっと入ってたりんご』とか、何その危険物質ハァハァ。 それを寄越せえぇぇ!!という、ASBと自分の意見、プラス 同意見とのことで頂戴したコメントにあった『多少温まっていようが』という一言に 柚守の脳が沸きましたwww コメ主さまGJ! あと以下本文内容について、 「おっさん、そこは舐めとけよ吸い付いとけよ!!」というのがASB柚守の共通意見です。 同感というご意見ありましたら遠慮なくどうぞw ※※※ ※※※ ※※※ |
暖めたパンを手に取ったところで、トレイを眺めたユーリが忘れ物に気付く。 「あ、ナイフ忘れちまった。おっさん、短剣(それ)貸してくれ」 「はいはーい」 テーブル上の料理をそれはもう嬉しそうに眺めていたレイヴンは、一も二もなく腰の短剣を引き抜いて差し出す。 ユーリは受け取った短剣でパンに切れ目を入れると、剣を逆手に持ち変える。その手で塩抜きして焼いた肉を摘みあげ、切れ目に押し込んだ。 指を伝い垂れたオレンジソースを舐めると、味にヨシと頷きそのままパンに齧り付く。 「……青年さー、それ他んトコでもやってんの?」 「あん?」 スープをすすっていたレイヴンの上目遣いに、ユーリはなにを言われたかわかっていない顔で瞬きを一つ。 「それって、なんのことだよ。ああ、これサンキュ」 「どーいたしまして」 レイヴンは皿から顔を上げ――動きを止めた。 自分が舐めた指が柄に当たらないように、と思ってくれてのことだろうが…目の前に差し出された側の手。 そのおっさんに向けて伸びた親指とひとさし指はなんなんですか。自分の短剣よりそっちが気になるんですが。えそれ、おっさんも舐めていいの? ほんの一瞬でそこまで思考が展開し、レイヴンはそうと気付かれない程度に慌ててスープを含みつつ短剣を受け取る。 間違ってもユーリの指に吸い付いたりしないように。 トレイの上には、一つの皿の上に乗せられるだけのものを乗せてあった。 食べるのは男二人だ。多少味が混ざろうと気にはしないし、ユーリも混ざることで破壊的な影響のある味付けにはしていない。 野菜がぎゅっと詰まった厚焼きオムレツはそれだけで美味かったし、肉にかかったオレンジのソースはサラダにも併用でちょうどいい。甘いものがダメなレイヴンにも許容範囲のソースは、むしろ酸味が強くて、ユーリがしていたように焼いた肉をパンに挟めば、残った塩気と相まってひどく食欲を刺激する。 口に残った油は、スープで洗い流す。ユーリの神速技で薄く切られた野菜は、短時間でも上手く煮込まれて溶けかかり、程よい味わいだ。 ああ、この至福。 ユーリたちと別れて以降から今日の昼――ほんの数時間前まで自分が口にしていたものとは、天と地ほどの違いだった。 あー、美味いなぁ…とレイヴンがしみじみ呟けば、大げさなとユーリが笑う。 「どっかの店に飛び込めば、美味いもののひとつやふたつ、食わせてもらえるだろ」 「んー。そういうのとはまたちょっと違うでしょ。 やっぱりこう、自分のために作ってもらえたものってのは格別じゃないのよ」 「ああ…そういうのは、あるかもな」 別に、おっさんのためだけじゃねぇし、変わったものは作ってねぇけど。 ぶっきらぼうに言って、ふいと目を逸らす。 ユーリの仕草にどうしようもなく顔が緩むのを、レイヴンは食事の至福感とすり替えた。 「あー、ほんと美味かった〜〜。ゴチソウサマでした」 「おそまつさん」 自分も食べ終えたのか、膝の上のパンくずを軽く払ったユーリが自分の懐に手を差し込むのを、レイヴンはみるともなく見ていた。 が、そこからりんごが出てきたのには酷く驚いた。 袖口で軽く皮を拭き、丸かじりしようとしたところで、 「あーーー、青年青年」 声をかけられ、ユーリはふと手を止める。 「んだよ」 「それ、おっさんにも一切れちょーだい」 「…は?」 「そのりんご」 言われて初めて、ユーリは自分の手元に目を落とした。 「あ、悪ぃ。自分のしか持ってきてなかったっけ。おっさんの取ってく――」 「いやいやいや、おっさんはそれが、あー、それを分けてもらうだけでいいわ」 立ち上がろうとしたユーリを押しとどめるように、レイヴンは言葉を重ねる。 正直に滑りかけた台詞もすばやく言い繕う。 新しいりんごに何の意味があるというのか、欲しいのはユーリの懐に入っていたソレだ。 「ふーん? まあいいけど。一切れでいいのか?」 大きく頷き、気持ちが変わらないうちにとレイヴンは再び短剣を抜いて差し出した。 「………顔、切るなよ」 切り取った一切れ分を、短剣に突き刺し返したところ、レイヴンがやたら笑顔でそのままりんごを齧り始めるのを見て、 (おっさんもりんご好きだったのか…?) ユーリは首を傾げつつ、手元に残ったりんごに自分もかじりついて――軽く顔をしかめた。 自分の体温で温くなってしまっている。 「くそ、温い。失敗した、座ったときに出しときゃよかったんだ」 「え、おっさんぜんぜん気にならないけど」 「あ…そう」 笑顔を垂れ流しながらりんごを齧るレイヴンに若干疑わしいものを感じながらも、ユーリはその正体に気付くことはなかった――。 |