ゴンゴンというより、ゴツンゴツンという表現が似つかわしいノックの音に、玄関近くに居たディセットは警戒しながら自宅扉を開け ―― 即座に閉めようとする。
「冷てぇなオイ!」
閉まりかけたドアに、慌てて手をかけ引っ張る来訪者。
「………」
つかの間、無言のままで引き合いが続く。
が、ドアノブがギチギチと不吉に鳴り始めるに至り、家主が諦めのため息をつき、そこで一時休戦となった。
半ばまで開いた扉が、まるで譲歩の表れのようである。
「……何しに来た」
「初のお宅訪問ってぇヤツだ、がはははははは……!!」
唐突に押しかけて玄関先で品なく大笑いする巨大な物体に、ディセットは胡乱なまなざしを向けた。
「だから、何をしに来た」
「たかりに来 ―― 」
「帰れ」
「即答かよ」
存在感のありすぎる、いかつくてゴツい旧知の剣士を睨むように見上げ、ディセットはため息をつく。
「それで?
ラスト、本当の用件は何だ」
「ああ、ちっとキナ臭い話を聞きつけたんでなあ。
お前の耳に入れとこうかと思ってよ」
ラスト ―― ラスティコの話は、いつもかなり深刻な話であることが多い。そして、こういう話題の場合、ラスティコは嘘を交えず率直な話し方をする人間であった。
そういう今までを知っているだけに内容の信憑性は疑うべくもなかったが、話題が話題であることから奥に居る人間に話を聞かせたくはないな、とディセットは考える。
場所を変えよう、と口を開きかけたところで、人の声を聞きつけたか、肝心のその場所から声がかかった。
「あら、お客様?」
「レディーレ…」
振り返り、今出てこなくても、と言わんばかりの青年に構わず、厨房からディセットの隣に出てきて首を傾げるレディーレ。
気の小さい人間なら直視できないであろう迫力溢れる巨体を、恐れもなく見上げて微笑む少女を眺め、一拍置いてその彼女をラスティコは無遠慮にクイッと顎でしゃくってみせた。
「ディス、お前の女か? この貧にゅ ―― 」
―― バン!!!!!
ラスティコが「貧乳」と最後まで言い終わらないうちに、少女はディセットの手からドアノブを分捕り、力強く閉めた。
戸板にかけられたままのラスティコの手をそのままに。
「痛ってぇーーーーーーーーー!!!!!」
「兄さま、コレなぁに?」
見事な口封じを果たした後、可愛らしく首を傾げながら、扉の影、玄関先で悶絶しているであろう来訪者をコレと言い放った妹に、ディセットは深々ため息をつく。
「知り合いだ」
「兄さまに、こんな失礼な知り合いが居たなんて…」
「…まぁ、これでも腕は立つし信頼も出来るヤツだ。このデカいのと少し出てくるからな」
「お好きにどうぞっ」
あまりの気の毒さに思わずフォローしてから、被害確認のため無言で薄く開いたままの扉を押し開けるディセット。
そんな兄を尻目に、レディーレはぷいっと奥へ戻っていく。
損ねた機嫌を取り戻すのに土産のひとつでも必要だろうか、と考えつつ妹を見送り、青年は呻く巨体を戸柱にもたれて見下ろした。
「……レティ、いや妹が悪かったな。まあ、恨むなら自分の失言を恨め」
「妹かよ…道理でなぁ。見かけによらずワイルドだぜ」
「それ以上言うと、今度こそ息の根を止められるぞ。それから、死ぬなら他でやれ」
「…兄妹、よく似てらぁ」
ラスティコはそう言うと、立ち上がりつつ顔をしかめ、利き手の指を曲げ伸ばしして骨折を免れた幸運を噛み締めていた。
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