154 問答無用
259.生きて帰れると思うなよ
440 口は災いの元



「そういや、さっきから思ってたんだけどよ」
「なんだ」

 ダンジョン探索の「仕事」中、開けた箇所でひと休止だと足を止めたディセットは、今回の連れとなった『ゴツくてムサくてうっとうしい大柄な剣士』(ディセット評価)の発言に目を上げる。

「お前って、さぞかしモテるんだろうなぁ」
「………何を言い出すかと思えば」
「あぁん? なんでそんなイヤそーーーな顔してやがんだ?」
「迷惑だからだ」

 苦虫を数十匹程まとめて噛み潰したような顔で断言した連れに、剣士――ラスティコは面白そうな瞳を向けた。
「迷惑って…ネェちゃんたちにモテるのがかぁ? 贅沢なヤツだな、おい」
「そっちがよければ、梱包して包装してやるからまとめて引き取れ」
「オレが良くったって、相手が文句言うだろうがよ。がっはっはっはっは…!」

 豪快な笑い声に形の良い唇をゆがめたディセットは、懐から煙草入れを取り出すと一本抜き取り、
「火霊!」
 ヤケのように火を起こす。

「うわっち!お前、火ぃ強すぎだろうがよ!」
 ぽん!と音を立ててつつ燃え上がる勢いで火の付いた煙草をくわえ、あおりを食らったラスティコの苦情には煙草をくわえたままの一瞥で片付けると、ディセットは煙草を一回ふかし、吸った煙を高いところにあるゴツい顔めがけて吹きかけた。

 ふーーーーーー…っ

「げほげほげほ…! お前…性格が相当ねじれてんなぁ」
「人の苦労も知らずに、ド下手くそな冗談を吹っかけるからだ」
「苦労ってのも、取りようによっちゃ立派な嫌味だぞ。モテなくてしかたねぇヤツが聞いたら、逆上しかねねぇ話だな。
 で?」
「…………何を期待してるんだ」
「そこまで聞いちゃあ、黙って引き下がれねぇのが人間ってもんだろ?
 どんな苦労なんだ?教えろよ親友」
「誰がだ」

 力いっぱいの拒絶にも、ラスティコはめげなかった。
「オレとお前」
「目を開けての寝言とは器用だな」
「ここまでだって、サイコーに息もぴったりだったしなぁ」
「上手くやらなきゃ、俺が死ぬだろうが」
「最強コンビってヤツか?なぁ相棒! がはははははは…!」
「人の話を聞け」

 げっそりと顔に書いて煙草をふかすディセットだが、ラスティコは一向に気に留めていない様子である。気が済むまで大笑いした後、
「…で、どうなんだ?」
 と、最初の質問に話が戻っていた。
「だから、何がだ」
「しらばっくれなくってもイイじゃねぇか」
「……掴み合いのケンカに巻き込まれる側の身にもなれ。しかも、こっちは初対面の女どもだぞ? 何もしていやしないっていうのに、何があんたなんかタイプじゃないだの、私のほうを見ていただの…!」
 何かを思い出したのか、言葉が進むにつれ顔つきも険悪になってきた。そのうち、グシャッと自分の吸っていた煙草を握り潰し、それに及んでディセットはようやくハッと我に帰る。
 短く治癒術の呪文を唱えると、
「…とにかく、ああいう女らとは、係わり合いになりたくないな」
 軽く咳払いをして後、何事もなかったかのように新しい煙草に火をつけるディセット。
 煙草をくわえつつチラと目を上げると、連れの口元が奇妙な形に歪んでいた。
「………お前、痛い目に合いたいらしいなぁ?」
「いや、いやいやいや…」
 ラスティコは、ブフッと妙な音を立てて口元を覆うと、慌ててゴホゴホとワザとらしく咳払いをする。
「それじゃ、逆のこと聞くけど、どんなヤツが好みなんだ?」
「……妙に食い下がるな」
「オレにゃ縁のねぇ話だからな。いっぺん聞いときてぇもんだぜ。ひょっとしたら、自分のケーケンとしてネタに出来っだろ」
「するな」
「堅ぇこと言うなよ」
「………」
「……………」
「…………………」
「………………………」
「…………………………ったく…」

 ニヤニヤ笑顔のまま答えを待ち続けるラスティコ。
 断固として無言を貫いていたディセットも、根負けしたように大きくため息をついた。
「考えてみたことはないが…そうだな、俺の興味を引くヤツが良い」
「………へ?」

 予想外の返答に、ラスティコはぽかんとして銀髪の魔術師を見つめる。
「なに間抜けな顔してるんだ」
「だってよ、普通はこう…黒髪でスタイルのいい、愛嬌があって気のつく女が良い…とかいうもんだろうがよ」
「お前はそういう女がいいのか」
「いや、例えばの話だぜ。どうよ、相棒」
「相棒になんかなった覚えはない」
「ついさっきだ。聞かせろよ、ケチるなって」

 なおも食い下がる様子に、これは筋道通して答えなければ話が終わらないとディセットは観念した。
 煙草をゆっくりふかしつつ、ディセットは今まで考えた事もない分野に思考を向ける。

「興味のわく人間でなければ、相手のことを知りたいとも思わんだろうが。恋人っていうのは、まず人間として好きになれる相手のことを言うんじゃないか?
 だから、まず興味だな。話をしていて面白い人間が良い。
 少しは目を離せないようなところがあっても面白いだろうが、可愛げがあるからこそ許せることになるだろうな。可愛げは必須だ。絶対に。
 あと、俺の仕事柄、踏み込んで欲しくないという境界線を理解してくれるヤツでないと、困るコトもある。
 贅沢を言えば、少しは使える(戦力になる)人間がいい。背中を預けられるならもっといいな。
 あとは………二の次三の次だが、料理や家事が出来れば文句ない」

 少々考え込みながらも、それでも彼なりに本気で答えたらしい。
 が、最後の一言以外は『理想の恋人像』の回答としては、ラスティコにとって思っても見ない答えばかりだった。

「………お前、そりゃ、女に求めるモンか? ていうか、その第一前提はなんだよ」
「求めて悪いものでもないだろう」
「まぁ、そりゃ…」
「実際として、そういう要素を満たさなければ、俺としては…付き合おうだとかそういう気になれないのは事実だ」
「つまり、そういうヤツがいりゃ、女じゃなくってもイイってことか」
「そういうことになるな」
 ディセットはあっさりと肯定する。
「へーーーーーーーーっ………」
 と、真面目に感心していたラスティコは、ふと悪戯気な…ニタリとしか表現しようのない笑みを浮かべた。
 怪訝そうに眉を寄せたディセットだったが、次の瞬間、連れの発言に吸いかけの煙草を取り落とす。

「オレに気があったのか。なるほどなぁ」
「……っ、どこからそういう思考が出てくる!!!!!」

 ざわっと鳥肌を立て、本気で嫌がる素振りを見せるディセットの背中を、ラスティコは遠慮なくバシバシと叩く。
「だからよ、話してて面白くて、使える人間だろ? 料理もちったぁやるぜ? なにより、あっちのテクもあるしなぁ」
「そんなことは聞いていない!俺が言っていないことまで喋るな!」
「あった方がいいだろうがよ。優しくするぜぇ? なーんてな!がっはっは………!!」
「………っ!」

 その瞬間、爆笑する大男を、氷よりも冷たい視線が撫で斬った。
「………お前、相当死にたいらしいなぁ? なんだ、それなら希望に応えてやろうじゃないか」
「へ?」
 笑いを収めて視線を降ろしたラスティコは、ゲッと声を上げて知らず一歩引く。
 視線の先には、ニコーリと微笑みつつ、凍てつき轟く海の瞳を眇める青年の姿があった。
 ブリザードを背負った悪鬼、という言葉を具現するかのような青年の姿に、ラスティコは(しまった、からかい過ぎた…!)と口元を引きつらせた。

「じ、冗談だって、冗談!なっ!!」
「死ね!!!!!」

 吐き捨てるなり、青年が本気の形相で呪文を唱え始めるのを見、慌てたラスティコは死に物狂いで通路の奥へと全力疾走を始めた…。


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